寒いけど、外に出るとたまに良いことがあるよ。

行きつけのY古書館に行って300円の本を買ったら、
「これ、あとちょっとで終わりですけど」
と、バイトのお兄さんが福引の補助券をくれた。
300円で1枚。10枚たまったら1回くじが引ける。
しかし期限を確認すると、福引の終了時刻まではあと10分ほどしかない。
「1枚だけあってもだめですね」
と(やや物欲しげに)笑うと、お兄さんはほんの少し考えてから
「そうですね」
といって別の券を手渡してくれた。
本当は3千円分買わないともらうことのできない、
1枚だけでも1回くじが引ける券だ。

日曜日の夜。
地下街のメインストリートは大きな紙袋を提げた人々で溢れかえっている。
特設の福引会場で長い列の一番後ろに並び、景品一覧表を眺めながら順番を待った。
特等はヨーロッパ3泊4日の旅だったが、
私が最も注目するのは3等だ。地下街のお買い物券、3万円分。
3万円あったら何が買えるか、瞬時に想像してしまう。
毎日寒いし、ここは思いきってちゃんとしたブーツを買おう。
黒くて何の飾りもついていないブーツ。
あとは、ブーツにぴったりのスカートも。
友達を誘って最近できたばかりの牡蠣の店へと繰り出し、
食後には好物の杏仁マンゴーソフトを食べるのだ(ブーツを履いていれば寒くない)。

待てよ。
この券が当たったら、あのお兄さんのおかげだ。
3万円のうち、何割かはお兄さんに渡すべきではないか。
当たったその足で古書店に駆け戻れば、閉店に間に合うかもしれない。
お店のシャッターを閉めかけているお兄さんに、
「さっきの券で当たったから、山分け」
と告げて1万5千円分のお買い物券を手に押し込み、
有無を言わせずさっさと帰ってきてしまうのだ。

あ、でもお買い物券が1万円単位だったらどうしよう。
私が2万円でお兄さんが1万円か。ケチかな。
そもそも元手はたった300円なのだから、私は1万円でもいいくらいのはず。
私が1万円でお兄さんが2万円。

しかし、いきなり2万円も渡して逆に気を悪くさせたら困る。
いや、この場合気を悪くさせる可能性のほうが高い。
仮に喜んで受け取ってくれたとしても、
私もしばらくは何となく古書店に行きにくくなるし
うーん、それは不便だから、やっぱりお兄さんにお買い物券をあげるのはやめて
その分古書店でいっぱいお金を使うっていうのはどうだろう。
我ながら賢明な判断だ。

などと妄想してしばらく楽しむことができるから、やっぱり外出は良いものだと思う。
くじがハズレだったことは、この際あまり関係ないのである。
(2006年1月16日)
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