腕時計がない。なくしてしまった。
うすうす気付いてはいたのだが、きのう、全ての鞄と、
全ての服のポケットをさらってみたのだ。
ない。もちろん引き出しとかにもない。

なくしてしまった。
普段なら物をなくしたくらいでくよくよしないけれども
(いちいちくよくよしていると生活に支障がでるのだ)、。
今回は落ち込まずにはいられない。
今まで買った時計の中で、一番高いあの時計。
前回安物の時計をなくした時に、
「まともな大人ならば、まともな腕時計を持たねばなるまい」
と、精一杯のまともさを目指して買った時計。

なくしてしまった。
携帯電話の時計を見ながら、とぼとぼ歩く。
そうだよなあ。だって、「まともな大人」じゃあ、ないもんなあ。
腕時計を買うたびになくしているので、今は手元に一本もありません、
なんて、「まともな大人」じゃあ、ないよなあ。

こういうときは、この先のカフェに行こう。
ぼうっとして、時間をやりすごそう。


すいません、あ、はい、一人です。
(なくしてしまった…)
あ、はい、どうも。
(あれ、この人の時計、私のなくした時計に似てる。)
(なくしてないんだ、いいなあ…)

照明が落ちた店内で、それぞれのテーブルの
上が美しく照らされている。

水がぴかぴかと光って、いつまで眺めていても飽きない。

やっぱり、腕時計、大事なのか。
こんなに綺麗な水を出せる店の人も、腕時計をしている。

でもまあ、あれです、大事なのは腕時計があるなしの問題だけではないことに、
私もうすうす気が付いてはいるのですよ。

(2006年1月19日)
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