なくした話は、まだまだある。
電車のキップをなくしたことがある。
改札の内側ではなく(それももちろんあるのだが)、 外側で、一瞬のうちに。

ある駅でキップを買い、友達がキップを買っている間に
メールチェックをして、
ふとキップを握っていた手を開くと、…そこには何もないのだった。

あまりに鮮やかな消え方に仰天しつつ、
いつのまにポケットに入れたのだろうか、とさらってみたものの、
驚いたことに、というか、当然、というか、
キップはどこにもないのだった。

なんという不思議さ。まるで手品のようだ。

しかし、ここでは手品を仕掛けたのも、見たのも私一人なのだった。
手品そのものは最高の手際の良さで行われたが、
手品師も観客も望まない状況が現れるということは、
そして本当に「タネも仕掛けもない」状況に出会うのは 、
あまり愉快なことではないのだった。


(2006年1月26日)
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