駅からの道はかなりわかりにくく、途中で迷ったのではと不安になるほどです。
店が入っているのは小さなビルの三階で、そとから見上げると
へんてこな宇宙人の置物が、バルコニーから手招きをしています。
階段を上り、じゃらじゃらと鳴るすだれをくぐります。
店内にはチェット・ベイカーの甘い声が流れ、古い時計やカメラ、花瓶に模型自動車など、
昭和の雰囲気漂うアンティークが所狭しと並んでいます。
気になったものを手に取り、ひっくり返して値札を確認しながら
店の奥へと進むと、馬鹿でかい年代物のレジスターの向こうに店長が立っています。

「いらっしゃいませ。今日は何になさいますか」
「えーと、カットとパーマで」

これが、私が行きつけにしている美容室。
駅から遠い代わりに妙に広い部屋を借りてしまった店長が、
趣味のカメラやアンティークを一緒に売ることにした、変な店なのです。
アンティークショップのコーナーと美容室のコーナーは一応分かれていますが、
美容室の方にも変な看板やら謎の置物がたくさん置いてあり
その隙間に鏡とシャンプー台(全自動最新式)が申し訳程度に挟まっている印象。
小首を傾げたビクターの犬が、大きさ順に20匹ほど並んでいる一角が
特に目を引きます。

ほら、髪を切ってもらう間の、美容師さんトーク
(「お仕事何されてるんですかあ?」で始まるやつ)。
あれってけっこう苦痛でしょう?
それが、ここを見つけてから、喋るのが楽しくて仕方ないんです。
店長がこの前見つけた掘り出し物の話とか、最近のフリーマーケット事情とか。
根掘り葉掘り尋ねては、店長の仕事の邪魔をしています。
仕事って、つまりは私の髪を切ることなんだけど。

何を基準に美容室を選んでいるのやら、と言われてしまいそうだけど、
肌合いというのかなあ、自分にとって気持ちのいい空間で髪形を整えるって
けっこう重要なことよね。

あ、もちろんカットの腕も決して悪くはないです。念のため。
ぼさぼさの髪になっているのは、店長の腕のせいではなく
私のメンテナンスに問題があるのではないかと思われます。
(2006年3月6日)
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