辻邦生の短編には、ある女が暖炉の炎の中に不思議な生き物を 見る話があります。

「炎とそっくりの格好をした、金色の、奇妙な生き物」は彼女の前にしか 現れません。

「奇妙な生き物」は他の人間が大事にされている時、
彼女がないがしろにされている時に現れます。
可愛らしい妹が褒められたり、従姉妹が美しい男性と結婚したりする時です。
そして暖炉の中で滑稽な踊りをして彼女を楽しませます。

彼女は心慰められますが、「生き物」が現れると褒められた妹や
美男の花婿はたちまち不幸な事故で亡くなります。
老年に差し掛かるまで、ずっとそのようにして人生がすぎます。

年老いてある家に仕えていた女は、家の優しい娘から
親切にしてもらったところを女主人に激しく咎められます。

お嬢様の親切に甘えた自分が悪かった、と女は反省するのですが、
その瞬間暖炉の中で金色の生き物が踊り始め、次の日死ぬのは…優しい娘なのです。

「奇妙な生き物」の正体は「妬み」という短編のタイトルが
表わす通りのものか、あるいは本当に、人が人を妬む暗いエネルギーを糧として
生きる生き物なのかもしれませんが、その殺伐とした素早さと、
妬む対象を映す正確さに、いつ読んでもぞっとさせられます。

…ということを、例の積み木を眺めながら思い出しました。
「やる気がむくむくともたげている様子にも見えるし、
怒りとか疑念のようにも見えるし、どことなく色っぽい形にも見える。」
という、あなたの感想にもありましたが、
炎には人の心を映す鏡としての要素もあるのかもしれません。
玩具を子供に与えるということは、なかなかスリリングなものですね。
(2006年3月16日)
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