朝起きたらどしゃぶりで、とっさに(おじいちゃん旅行なんだな)と思った。

祖父は筋金入りの雨男である。
写真が好きでしょっちゅう旅に出るのだが、
旅行に出かけてきちんと晴れたためしがない。

今日もまたひどい雨で、そんな中やはり祖父は一日花を撮りに行って留守である。
こんな雨でいい写真が撮れるのかと心配になるが、
老人会でバスを借り切ってしまったため行くしかなかったのだという。

一人で留守番していると、祖父宛の電話が矢継ぎ早にかかってきて閉口する。
「フォトクラブのユザワですが、ああ、石川さんはご旅行中ですか。ではまた」
「老人会のハシノですが、石川会長はおられますか」
「町内会のマツシマです。ゲートボール大会の抽選会日時に変更が出まして、
スポーツ部長の石川さんに至急ご連絡を…」
「ケアプラザのイシヅカですが、今度石川さんにご出演いただく
ハーモニカ演奏会のことでちょっとご相談が…」

ハーモニカ?

たまりかねて祖父の携帯電話に電話してみると、
祖父の部屋で呼び出し音が鳴り響いた。
(携帯、置いて行っちゃったのか…)

雨が上がりそうもない。
今ごろ、祖父は老人会の面々と共に雨に濡れた花々を眺めていることだろう。
そして帰ってきたら、また性懲りもなく次の遊びの計画を立て始めるに違いない。

   雨粒をまともに食らひ呆然と空を眺めてゐるミズバショウ
(2006年5月8日)
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