バッタ男と夏








お面から僅かに覗く目の部分 軽い会釈をして過ぎ行きぬ



脚長のバッタ男は跳ねながら生き急ぐかなしみを言ひたり



かなしみは駿足にしてアキレスのかかとに届く 日暮れを待たず



よく転ぶ人と歩けばおもしろうてやがて涼しき日没となる









「秋が来たら少しは楽になるかな」とバッタ男の静かな黒目



暗がりにほの光るのは人ごみで手を放されてしまつた子ども



非常灯/君は大きく振りかぶり/そこで私の記憶は終はる



初出:東京新聞 2007.8.25夕刊









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